潰瘍性大腸炎・クローン病 UC-CD
炎症性腸疾患(IBD: Inflammatory Bowel Disease)について
潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)といった炎症性腸疾患(IBD)は、主に腸管に慢性的な炎症を引き起こす疾患で、病因ははっきりとは分かっていませんが、遺伝的素因、環境要因、免疫系の異常などが複雑に絡み合っていると考えられています。
かつては日本では稀な疾患でしたが、生活習慣の変化や診断技術の向上に伴い、近年急速に増加しています。
これらの疾患は慢性で治療が長期化するため、患者様と医療者との密な連携が求められ、適切な治療と経過観察が重要です。
潰瘍性大腸炎について
潰瘍性大腸炎は、原因不明の炎症性腸疾患の1つで、大腸の粘膜に慢性的な炎症が起こり、びらんや潰瘍が生じる疾患です。
主な症状には、腹痛、血便、下痢、発熱、貧血などがあり、合併症を伴うこともあります。
日本における罹患率のトレンド
・日本での潰瘍性大腸炎の患者数は、1950年代には極めて少数でしたが、1960年代以降急増し、2020年時点では約22万人に達しています。
・潰瘍性大腸炎の罹患率は年々増加しており、現在では人口10万人あたり約200人とされます。
・罹患者の増加は、都市化や食生活の西洋化、ストレス増加などが背景にあると考えられています。
潰瘍性大腸炎の主な症状
初期には、血便や下痢、痙攣性あるいは持続的な腹痛が起こります。病状が進行すると、血便や下痢の回数が増え、体重の減少、発熱、貧血などが見られるようになります。
さらに、関節や皮膚、目などに合併症が生じることもあります。これらの症状は、症状が落ち着く「寛解期」と悪化する「再燃期(活動期)」を繰り返すのが特徴です。
潰瘍性大腸炎の原因
潰瘍性大腸炎は、厚生労働省により難病に指定されており、現在のところ完治させる治療法は確立されていません。遺伝的な素因を持つ方が、食生活などの環境因子の影響で免疫機能に異常をきたし、発症すると考えられています。
完全な治癒は難しいものの、専門的な治療を受けることで症状をコントロールし、寛解状態を保ちながら、日常生活を問題なく送ることが可能です。近年では、食の欧米化や内視鏡検査の普及などにより、潰瘍性大腸炎と診断される方が増加しています。発症しやすい年齢は、男性では20〜24歳、女性では25〜29歳とされますが、年齢や性別に関係なく誰でも発症する可能性があります。
潰瘍性大腸炎の診断
潰瘍性大腸炎には明確な診断基準があり、複数の検査を組み合わせて診断が行われます。
便検査では、寄生虫や細菌による感染性腸炎の可能性はないかを確認します。さらに、大腸カメラ検査によって大腸粘膜から組織を採取し、病理検査で他の器質的疾患がないかを調べます。
これらの結果を踏まえ、総合的に潰瘍性大腸炎かどうかを判断します。
潰瘍性大腸炎の分類
病変の広がり方によって「全大腸炎型」「直腸炎型」「左側大腸炎型」「右側または区域性大腸炎」の4つに分類されます。
なかでも、発症から10年以上経過した直腸炎型以外の患者様は、大腸がんのリスクが高まるとされています。
そのため、定期的に大腸カメラ検査を受けて経過を観察することが重要です。
潰瘍性大腸炎の治療方法
潰瘍性大腸炎には完治させる治療法がないため、治療の目的は大腸粘膜の炎症を抑え、症状を緩和することで寛解期に導き、その状態を維持することにあります。
主な治療は薬物療法で、5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤や副腎皮質ステロイド薬が使用されます。これらの薬で十分な効果が得られない場合は、JAK阻害薬や抗TNFa受容体拮抗薬などの生物学的製剤を検討します。
薬による治療で炎症や症状の抑制が困難な場合や、大腸がんの発症が確認された場合、またはその可能性があると判断された場合には、大腸の全摘出手術を行うことがあります。なお、手術が必要とされた場合には、連携している医療機関をご紹介いたします。
潰瘍性大腸炎の
医療費助成制度について
潰瘍性大腸炎は、公費による医療費助成の対象となる疾患です。重症度分類で一定以上の病状がある場合や、軽症でも高額な医療費が継続的にかかる場合には、助成を受けることができます。助成を受けるには「受給者証」が必要となり、申請の際には、指定医療機関の難病指定医が作成した「臨床個人調査票」を用意し、お住まいの市区町村にある保健所で手続きを行います。申請が認められれば、申請日まで遡って助成を受けられます。
クローン病について
クローン病は、炎症性腸疾患の1つで、口から肛門までの消化管全体にわたって慢性的な炎症が起こり、肉芽腫が生じる疾患です。肉芽腫は潰瘍や線維化を伴うことがあります。比較的若い年代での発症が多く、男女比では男性が多い傾向があり、現在も患者数は増加傾向にあります。原因は明確に解明されておらず、完治を目指す治療法も確立されていないため、厚生労働省から難病として指定されています。
日本における罹患率のトレンド
・クローン病の患者数は増加傾向にあり、2020年時点で約4万人とされています。潰瘍性大腸炎と比べると患者数は少ないものの、増加のスピードは似通っています。
・日本での罹患率は人口10万人あたり20~30人程度と報告されていますが、クローン病はより若年層(10代から30代)に多く見られ、長期間の治療が必要な場合が多いです。
クローン病の主な症状
クローン病では、患者様の半数以上に腹痛や下痢といった症状が見られます。症状の内容や程度は、病変の範囲や発生部位(小腸型、大腸型、小腸・大腸型の混合)によって異なります。さらに、腸の狭窄や瘻孔、膿瘍などの腸管合併症に加え、虹彩炎、関節炎、壊疽性膿皮症、結節性紅斑など、目・関節・皮膚に及ぶ腸管外合併症が生じることもあります。
また、クローン病では肛門周囲膿瘍の発症が多く、肛門病変の診察がきっかけで疾患が判明するケースも多いです。
クローン病の原因
クローン病の発症原因は、現在のところ明確には解明されていませんが、複数の要因が関与して発症すると考えられています。遺伝的素因、感染症、血流障害、食生活などが影響している可能性があるものの、発症の詳しいメカニズムは不明です。
近年の研究では、遺伝的背景と免疫の関係に注目が集まっており、腸内細菌や摂取した食物に対して免疫細胞であるリンパ球が過剰に反応することで、炎症が引き起こされるのではないかといわれています。
クローン病の診断基準
クローン病の診断は、画像検査・内視鏡検査・病理検査などによって特有の所見が確認された場合に、診断基準に基づいて総合的に行われます。また、クローン病では肛門疾患を伴うことが多く、肛門部の病変からクローン病が見つかるケースも少なくありません。
クローン病の治療方法
クローン病の治療には、薬物療法や栄養療法といった内科的治療と、必要に応じた外科的治療があります。完治を目指す治療法は現時点では確立されておらず、主な目的は症状の緩和と生活の質の向上です。
基本的には内科的治療が中心となり、穿孔や腸閉塞、膿瘍といった合併症がある場合には外科手術が行われます。近年では、抗TNFα受容体拮抗薬の導入により、外科手術の件数は減少傾向にあります。
炎症や症状が強い場合には、5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤、副腎皮質ステロイド、免疫調整薬などを用いて治療を行います。症状が改善しても、自己判断で治療を中断すると再燃のリスクがあるため、医師の指示に従い治療を継続することが大切です。十分な効果が得られない場合には、抗TNFα受容体拮抗薬などの生物学的製剤を使用することも検討されます。
注意事項
クローン病は、潰瘍性大腸炎とは違い、腸の深い層にまで炎症が及ぶ点が特徴です。炎症を繰り返すことで腸に損傷が蓄積し、腸管の狭窄など様々な合併症を引き起こしやすくなるとされています。そのため、できるだけ早く症状を落ち着かせ、安定した状態を保つことが治療の大きなポイントとなります。
なお、自覚症状がない場合でも内部で炎症が進んでいることがあるため、定期的な検査による状態の把握が必要です。加えて、日常生活では動物性脂肪を控えるなど、再燃を防ぐための食生活の見直しも重要です。
炎症性腸疾患における
内視鏡検査の役割
について
1 疑診時の内視鏡検査
IBDが疑われる段階では、内視鏡検査は確定診断のための最も重要な検査です。
内視鏡を用いることで、腸内の炎症の部位、範囲、程度を直接観察できるため、潰瘍性大腸炎とクローン病の鑑別に役立ちます。
潰瘍性大腸炎では大腸粘膜の広範なびらんや潰瘍が見られるのに対し、クローン病では非連続性の病変や回盲部の炎症が特徴的です。
また、生検による病理診断も可能で、組織学的な所見を得ることで診断精度が向上します。
2 治療開始直後の内視鏡検査
治療を開始した直後や数週間以内に内視鏡検査を行うことで、治療に対する反応を評価することができます。
特に、ステロイドや生物学的製剤を用いた治療を開始した後に、内視鏡による粘膜の治癒状況を確認することは、治療の適切さを判断する上で重要です。
炎症が早期に改善している場合、予後が良いとされており、逆に改善が乏しい場合は治療方針の見直しが必要です。
このような粘膜治癒の評価は、再燃リスクの低減に直結するため、治療効果をモニタリングする上で不可欠です。
3 維持療法中の内視鏡検査
IBDは慢性疾患であり、症状が安定している時期でも再燃のリスクがあります。
そのため、維持療法中にも定期的な内視鏡検査が推奨されます。これにより、症状がなくても腸内に潜在的な炎症が残っていないかを確認し、必要に応じて治療の調整を行うことができます。
また、特に潰瘍性大腸炎の患者様では、長期間の炎症が続くことで大腸がんのリスクが上昇するため、がんの早期発見を目的とした内視鏡検査も必要です。
4 再燃時の内視鏡検査
症状が再燃した場合にも内視鏡検査は重要です。再燃の原因が炎症の悪化によるものか、他の要因(感染症や薬剤性の腸炎など)によるものかを判断するために必要です。
適切な再燃の評価を行うことで、適切な治療を迅速に開始でき、患者様の苦痛を早期に緩和することができます。
まとめ
内視鏡検査は、IBDの診断から治療、経過観察まで、病態の各段階において不可欠なツールです。病状の正確な把握や治療方針の最適化、再燃リスクの低減、さらにはがんの早期発見にも寄与するため、患者様にとって質の高い医療を提供するためには欠かせません。